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2016年12月
理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター記憶神経回路研究チームの小澤貴明客員研究員、
ジョシュア・ジョハンセン チームリーダーらの国際共同研究チームは、
ラットを用いて、恐怖の到来があらかじめ予測されると、
特定の脳活動が後に起こる恐怖体験の際に感じる恐怖の強さを抑制し、過剰な恐怖記憶の形成を防いでいることを発見した。
不安感や恐怖をもたらす出来事は私たちにとってストレスとなるが、
嫌な体験に関する記憶によって、事前に危険を予知したり身を守るなど、私たちの生活に必要な能力である。
しかし、必要以上に強い恐怖記憶の形成は、ストレスと関連した不安障害などの精神疾患の一因となる場合がある。
不安障害になると、ストレスに過敏になったり、新たに“過剰な”恐怖記憶を形成することもある。
恐怖記憶が有効に働くためには、実際の体験に見合った適切な強さの恐怖記憶の形成が必要である。
そのためには、恐怖を感じるための脳の働きに加えて、過剰な恐怖を抑制するための働きも必要であると考えられてきたが、
そのメカニズムはほとんど明らかになっていなかった。
ラットに音を提示した後に、恐怖体験として弱い電気ショックを与える訓練を行うと
ラットは音によって電気ショックの到来を予測することを学習し、音に対し恐怖反応を示すようになる。
この「恐怖条件づけ」では、恐怖反応の強さは訓練を繰り返すたびに増加するが、
十分に行うとそれ以上訓練しても増加しないことが知られている。
これは「恐怖学習の漸近(ぜんきん)現象」として、多くの生物種で認められる普遍的な現象である。
今回、国際共同研究チームはこの現象をもとに、恐怖体験の事前予測による過剰な恐怖学習の抑制について調べた結果、
ラットが一度恐怖を体験し、恐怖の到来を事前に予測できるようになると、
「扁桃体中心核(*1)→中脳水道周囲灰白質(*2)→吻側(ふんそく)延髄腹内側部(*3)」回路という一連の脳領域が活性化し、
さらなる恐怖記憶の形成を防ぐ働きをすることを発見した。
また、光遺伝学(*4)を使ってこの回路の働きを不活性化すると、
恐怖記憶形成の中枢である扁桃体外側核(*5)が活性化し、過剰な恐怖学習が引き起こされることが分かった。
本成果の過剰な恐怖に対する“脳内ブレーキメカニズム”は、
私たちの日常におけるストレスコントロール、さらには不安障害などの精神疾患のメカニズムの理解につながることが期待される。