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統合失調症の労働状態の推定法の開発 −病前からの認知機能低下の推定値による確率モデルの有用性−

2018年8月

大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、福島大学人間発達文化学類の住吉チカ教授らは、
1)病前からの認知機能低下(※)の推定値が労働時間と関連することを見出し、
2病前からの認知機能低下の推定値を含む関連要因により、週当たり一定時間以上働ける確率を推定する方法を開発しました。
本研究で示す確率モデルに基づいて、その将来的な労働環境の適正化に役立つ情報を提供することができます。
従って、統合失調症患者の社会復帰可能性について、
患者やその家族への適切なフィードバックがなされ、よりよい精神科医療の実現に貢献すると考えられます。

 研究の背景
統合失調症は約100人に1人が発症する精神障害です。
幻覚・妄想などの陽性症状、意欲低下・感情鈍麻などの陰性症状、認知機能障害が中核的な症状であり、
多くは慢性化・再発の経過をたどります。
さらに多くの患者において、発症後、認知機能の低下が見られ、
それが患者の自立した生活や社会への復帰、特に労働状態の回復を困難にしています。
橋本准教授らのグループは、患者ごとの個別の認知機能低下を測定する方法がなかったため、
病前の認知機能の推定値と現在の認知機能指標を用いて、
個人ごとの病前からの認知機能の低下を推定する方法を見出し、
更に臨床現場で使えるような簡便な現在の認知機能の推定法を開発しました。
これらを用いた患者ごとの個別化医療に貢献する認知機能障害の推定法の普及を、全国で講習を行って進めており、
この内容は日本神経精神薬理学会が作成した「統合失調症薬物治療ガイドー当事者・家族・支援者のためにー」にも、取り上げられています。
しかし今まで、病前からの認知機能低下の推定値を因子として組み込んだ労働状態の推定は行われていませんでした。
また、実際に推定を行い、その結果を統合失調症患者やその家族にフィードバックする方法も提示されていませんでした。
 
 研究の内容
「研究の背景」に挙げた問題を踏まえて、本研究では、
1)労働状態と関連する要因について病前からの認知機能低下の推定値を中心に検討し、
2)有効な因子を用いて労働状態の推定を実践することを目的としました。
解析の結果、病前からの認知機能低下の推定値は労働状態の推定に有効な変数であることが確認されました。
またロジスティック回帰分析のモデルから得た推定式から、
認知機能低下の推定値とともに有効だった因子(精神症状と社会機能)を用いて、
各患者が基準値以上働ける確率についても推定する方法を提示しました。

 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究で提示した労働状態についての推定法により、
統合失調症患者やその家族が、患者の社会復帰について有用な情報を得ることができます。
患者と医師で情報を共有して、治療方針を決めることを共同意思決定(Shared decision making: SDM)といいますが、
精神科医療ではこの根拠となるような情報が少なく、まだまだ十分に普及しているとは言えない状況にあります。
このような情報を患者・家族・支援者と医師で共有することによって共同意思決定が普及することが期待され、
患者の治療への動機付けや、その家族まで含めた生活の質の向上にも大きく貢献すると考えられます。

 

※ 病前からの認知機能低下
ウェクスラー式知能検査で得られた現在のIQから推定病前IQ(JART: Japanese Adult Reading Test)との差を病前からの認知機能低下の推定値とし、それがマイナス10点以上の場合、認知機能低下が生じていると定義される。

本研究成果は、米国科学雑誌Schizophrenia Researchに平成30年6月28日(午後8時:日本時間)に発表されました

  ※プレスリリースより一部抜粋して掲載しております

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