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2017年5月
大阪大学大学院医学系研究科の近藤誠准教授、島田昌一教授(神経細胞生物学)らの研究グループは、
セロトニン3型受容体※1が、脳の海馬のIGF-1(インスリン様成長因子-1)※2の分泌を促進することにより、
海馬の新生ニューロン※3を増やし、抗うつ効果をもたらすという、うつ病の新たな治療メカニズムを発見した。
現在、うつ病治療には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択薬として最も広く使用されているが、
その寛解率は半数にも満たないとされており、
SSRIが効かない難治性うつ病患者を治療するための新たな方法や治療薬が必要とされていた。
動物の脳の海馬には、神経幹細胞が存在し、新しい神経細胞(ニューロン)がたえず生まれており、
この現象は、海馬の神経新生と呼ばれている。
そして、うつ病の治療メカニズムには、海馬の新生ニューロンが必要であることが知られている。
島田教授らの研究グループは、これまでに、
運動がもたらす、うつ病の予防改善効果や海馬の新生ニューロン増加には、
セロトニン3型受容体が必須の働きをしていることを明らかにしている。
しかし、海馬の神経新生やうつ病の治療メカニズムにおける、
セロトニン3型受容体の詳細な働きについては、明らかではなかった。
今回、同研究グループは、さらにセロトニン3型受容体の働きに着目し、
セロトニン3型受容体と、海馬の神経新生やうつ行動との関連について詳しく解析し、うつ病の治療メカニズムの解明を試みた。
研究グループはマウスの脳を解析し、海馬において、
セロトニン3型受容体を発現する神経細胞がIGF-1を産生していることを新たに発見した。
さらに、セロトニン3型受容体アゴニスト(セロトニン3型受容体を刺激する薬物)をマウスに投与すると、
海馬のIGF-1分泌が増加することを明らかにし、
セロトニン3型受容体が海馬のIGF-1分泌を制御していることを新たに見出した。
さらに、セロトニン3型受容体アゴニストが、海馬の新生ニューロンやうつ行動に与える影響を解析した。
その結果、セロトニン3型受容体アゴニストは、
海馬のIGF-1分泌を促進することによって、神経幹細胞の分裂を促進して新生ニューロンを増やし、
抗うつ効果をもたらすことを明らかにした。
このメカニズムは、SSRIを投与した時には見られない現象であり、
SSRIによる抗うつ作用とは異なる、新しいうつ病治療のメカニズムとなる。
本研究成果により、SSRIが効かない難治性うつ病に対して、
セロトニン3型受容体を標的とした新たな治療薬の開発につながることが期待される。
さらに、セロトニン3型受容体アゴニストは、SSRIとは異なるメカニズムで海馬の新生ニューロンを増加させ、
抗うつ効果をもたらすことから、SSRIと併用することでも相乗的なうつ病治療効果をもたらし、
うつ病の寛解率を上げる可能性が期待されている。